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映画ログを中心にしております。映画館での鑑賞が中心です。旧作より新作が過半数を超えるのが方針としてます。

産業としての映画 「ハリウッド監督学入門」

 映画を好きになって、この監督やスタッフの作品がどれだけ個性的で魅力的だと思っても、音楽や絵画や文学と違って予算が必要なことを思い知らせてくれる。予算を出すのはもちろん企業なため、どうしたって一個人はスケジュール調整などにより自由に作品を作ることができない。

 この映画を観ようと思ったのは、2022年に鑑賞した「“それ”がいる森」がとても楽しくて2回鑑賞した。しかし、世間の反応としては余り芳しくなく、レビューサイトなどでは見たことがないぐらい低評価が多かった。興行収入によると4.8億https://pixiin.com/ranking-japan-boxoffice2022/らしいので悪くない興行成績のはず。この不思議な評価をされている監督は、どんなことを考えて映画を作っているのだろうと思った。
更に以前から英語の映画ウェブサイトを見ていると気になる単語としてVulgar auteurismという言葉があり、下品な作家主義という言葉である。どこかのサイトでこの作家群について外国人からアメリカに来た人が多いという定義をしているサイトがあったのだが、失念してしまい残念ながらリンクとして出せない。これは、実をいうと根深い構造的差別であると思っていて、例えばジャスティン・リンやジャウ・マコレット・セラなど大衆向けの娯楽映画は素晴らしいが、主流の批評や評価からは排除されてしまっている。そんなハリウッドの外国人監督はずっといるのだが、日本では中田秀夫が挑戦をしたことがある。その前は周防正行かと思う。そんな中田秀夫が実際にハリウッドに行った自らの体験をドキュメンタリーにしている。2000年代のハリウッドなので今のように配信が始まる前の環境というのも補足する必要がある。
 グリーンライト(製作決定)、カヴァレッジ(カメラ複数台での撮影、マルチカメラ)、テスト・スクリーニングの3章からなる。製作決定の難しさについてはどの国でも多かれ少なかれある話かなと思っているが、カヴァレッジについてはテレビドラマではそんな撮り方をすると聞いたことがある。日本でも原田眞人がこのカヴァレッジを使うらしい。それと以前に「JOINT」の小島央大監督も舞台挨拶のなかでこのカヴァレッジを撮影で使ったとのこと。小島央大はCMなどでも活躍をしているらしいので、CM系でもこの撮影法が使われるのかもしれない。話はズレるが小島央大は素晴らしい現代半グレ映画「JOINT」を監督したので、次も楽しみにしているがなかなか話を聞かない。「JOINT」は自主映画とのことだが、製作会社に顔を売って作品を作れるようにして欲しい。話を戻すとそういったカヴァレッジの撮り方だと、監督や撮影の決定的なショットをなかなか撮れない。3種類で撮るとなるとどうしても、決定的な撮り方ができなくなってしまう。また、編集者としてはわかりやすくするため、役者の顔をアップが欲しくなるとのこと。また、DVDなど劇場以外で観る人の方が数として多いため、DVD鑑賞を前提にしているとのこと。テスト・スクリーニングでは、観客の反応を観て、ラストと繋ぎを変えるとのこと。
 実際にこの映画で語られる時期のハリウッド作品はあまり名作と呼ばれるようなものは少なく、20世紀にすでにキャリアを充分に形成できた人の作品が多く、ハリウッドで新たに送り出せた作家も少ないと思う。逆に今から考えれば、この低迷期に活躍して、今では製作会社を作ることができたのが、ジェームズ・ワンや、クリストファー・ノーランなのかもしれない。そんな時代が来る前に成功することができて自らのコントロール権を獲得できたのがM・ナイト・シャマランウォシャウスキー姉妹かもしれない。このドキュメンタリーは作品の質としては低迷していたころのハリウッドを映したものとして観てもが面白い。中田秀夫自身も帰国して現在は日本を中心にした映画作りをしている。それも年に1本以上の活躍をしている。ジェームズ・ワンの映画で5分に一回以上客を楽しませる作りの「マリグナント 狂暴な悪夢」があるが、それに似たハリウッド仕込みのサービス精神を中田秀夫なりに作品にしたのが「“それ”がいる森」かもしれない。